人間らしい

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humanly

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知らず知らずのうちに蝕まれていたのだ。
奪われていたのだ。
愛されたいという、醜い感情が。 

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電池が切れたみたいに動かなく
だんだんと体温が失われていくの

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死ぬことより、生きることのほうが恐ろしいとさえ思う。僕にとってそれ

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誰もが君のような人間だったなら、どれほど良

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「人間らしい」なんて笑う

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「本当の自分」なんて自分で決めるものでは

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それが人の本質だと気付きた。
心の奥底に巣食う怪物が、

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愛されたい。
彼女の漠然としたその望みを叶えるためにはどうすればいいだろうか。真に正しい答えは本当にあるのだろうか。
彼女は愛がどういうものなのかも知らない。そのか細い体を暖かく抱きしめてくれることだろうか?悲しみに暮れて流した涙を拭ってくれることだろうか?犯した過ちを許してくれることだろうか?欲しいものを与えてくれることだろうか?
愛がなんなのかわからない彼女には、きっと気付けない。ただそれを彼女が享受するにはあまりにも彼女は人の悪意にさらされ過ぎてしまったのかもしれない。
軽々しく"死にたい"なんて言って、心を慰めあっているような人間も、了見が欠如した"前向き"を押し付ける人間も、彼女には共感できない。
『人間らしく生きろ』
そんな些細な言葉も、彼女の小さな背に大きく伸し掛かっていた。

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物心がついたときから自分は孤独でした。自分の心の内を曝け出すことのできる相手など、誰一人として現れることはありません。
自分と他人との違いは、幼い自分にとっては心地が悪いものだったのかもしれません。他の人達が好きなものを自分だけが嫌いだったり、他の人達が嫌いなものを自分だけが好きだったり、そういった"違い"を他人には隠すようにしていました。人間というのは集団の中で均された常識から外れた異物を嫌うのです。外見の違い、中身の違い......変わり者はからかいや除け者の対象になる。それを幼いながらにわかっていました。

それゆえに心の中を明かさず、他人を隔ててきました。この醜い心を見透かされないように――生きるために自分を殺しました。
そうして"人間らしい"自分を演じてきたのです。

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あの日のことを、今でも私は覚えている。雨上がりの放課後、生徒の声、濡れたベンチ、水溜りが出来た運動場、網が破れたバスケットゴール、畳んだ白い傘、湿ったローファー、ありふれた夕暮れ。
友人が生徒会の雑務を終えるのを、校門の前に立って待っていた。通り過ぎていく生徒達も、一人佇む私も、ありふれた放課後の風景の一つ。記憶にも残ることのない、何の変哲もない日になるはずだった。

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―謬錯―

空疎。それこそがわたしを表す言葉だ。

父も母も友達も先生も、わたしを『良い子』だと言う。優しく、真面目で、褒められる人間だと。
小さい頃からそれこそが人間で、目指すべき"人間らしい"人間なのだと思っていた。
思えばわたしの生活の上にあるものは、どれもわたしのものなんかじゃあない。ピアノだって書道だってバレエだって、気が付いたときには当たり前のものとしてあった。
それは父や母がわたしを"よく出来た子"として演出するために押し付けたものに過ぎなかった。好きも嫌いもわたしには委ねられてはいなかった。でも、頑張れば両親は喜んでくれた。幼いわたしにはそれが全てだった。両親の喜ぶ顔がとても誇らしかったのだと思う。
わたしの幸せはそこにあるのだと思っていた。そうして生きていればわたしは幸せで入れるのだと思っていた。

そうして、いつの間にか自分の中で作り上げた『人間の枠』からはみ出さないように生きてきたのだ。
だからこそ彼女が、わたしにはとても美しく見えた。深い深い闇の中に突如差した光のように眩しかった。羨ましかった。

すっと『よく出来た子』を演じ続けていた。評価のために、周囲が自分に求める人物像のために動いていただけ。
なんて愚かなんだ、それはただの機械じゃあないか。
わたしなんてどこにもない、好きも嫌いも、なにもかも。

『良い子だね』
それはあたかも呪いのように、わたしを縛りつけていた。

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humanly

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それ故に心の中を明かさず、他人を隔ててきました。
この醜い心を見透かされないように――生きるために自分を殺しました。
そうして"人間らしい"自分を演じてきたのです。

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humanly

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知らず知らずのうちに蝕まれていたのだ。
奪われていたのだ。
愛されたいという、醜い感情が。 

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電池が切れたみたいに動かなく
だんだんと体温が失われていくの

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死ぬことより、生きることのほうが恐ろしいとさえ思う。僕にとってそれ

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―浪々―
そうした他人への拒絶は、いつの間にか僕の感情を歪ませていくようになっていった。
嫌われたくないと、そう思っていたはずだった。だがいっそのこと、このどす黒くてドロドロな腹の内を誰かに曝け出して、拒まれ、否まれ、憎まれ、恐れられたい。そんな風に考えるようになっていった。
このどうしようもない醜い心を受け入れようとする自分と、消し去ろうとする自分。どっちが正しいのか、もうわからなくなっていた。
誰かの侮蔑と拒絶でぐしゃぐしゃにしてほしかった。そうしてそこに残るものはなんなのか、知りたかった。
もしもクラスのあいつに僕の秘密を打ち明けたら、どんな顔をするだろうか。クズと罵り、僕を憐れむだろうか、それとも逃げ出すだろうか。
もう僕には普通の人と同じような生涯を送ることはできないだろう。体の奥底から滲み出てくる衝動を抑えつけることができないのだから。
人間の枠からあまりにもはみ出してしまったこの僕を、きっと世間じゃあ「異常者」だとか「怪物」だとかって呼ぶのだろう。『人の性は悪なり、その善なるものは偽なり』――それが正しいというなら、歪んだこの感情はとても"人間らしい"と言えるのかもしれない。
悪だの善だの、正直言って僕にはどうだっていい。そうだろう。みんながミュージシャンやスポーツ選手やアイドルに憧れを抱くのと同じように、僕は殺人鬼に憧れたのだ。

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―薄っぺら―

でも、それは違っていたのだろう。

この世界は要らないものがあまりに多すぎる。
どいつもこいつも、くだらない世間の一部に組み込まれた薄っぺらなハリボテだ。流されていくだけの死んだ魚だ。
群れて騒いでいる馬鹿な奴らと足並みをそろえるなんてごめんだ。俺はあいつらとは違う。
あいつらと同じになんかなりたくない。
周りの奴らが取るに足りない無意義な時間を過ごしている間も俺は歩を進めている。
あいつらとは違う。自分は特別な人間になる。

そんな思想に駆られていたのは、恐れていたからだ。

本当は気付いていた。
俺だって、俺の思う無価値な存在と何ら変わりはしないのに。それを認めるのが怖ろしかったのだ。
自分の世界に浸った、文学や音楽に耽った。あいつらには到底理解できないと、そんな風に思っていた。
実際は自分に酔っていただけだ。特別だと思い込んでいただけだ。
他人より本をたくさん読んだから何なんだ。言葉を多く知ってるから何なんだ。勉強をしたから何なんだ。
どれだけ崇高な考えを持ったって、僕はアリストテレスになれやしない。
本当に薄っぺらなのは俺のほうだ。
素晴らしく滑稽で、醜くて、惨めで、憐れな人間だ。

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